【感想】震える牛 相場英雄【ネタバレ】
震える牛 相場英雄
この記事はネタバレを含みます。
未読の方はご注意ください。
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タイトルから察する通り、BSEに関する事件を取り扱った作品だった。
しかし、それだけではなく、加工食品による食の安全や、地方都市の大型ショッピングセンターによる地域破壊についての問題など社会問題となったものも同時に扱っている。
未解決事件を担当する田川の捜査は地味の一言だが、そういった地道な捜査が解決に導くことはフィクションながら頭の下がる思いだ。
作中にも出てくるが、キャリア組のメンツを守るために捜査第一とならないのは人間社会の癌だとも言える。
何が大切なのか優先すべきことを間違えないようにしてもらいたい。 また、政治家や他の状況を鑑みた宮田による事件の落とし所についてはこれで良かったのだろうか。
たしかにあった出来事をそのまま発表してしまえば、社会が混乱してしまい、風評被害によって被害を受ける人々が出てくるかもしれない。
加害者もオックスマートもミートステーションも罰を受ける。
しかし、それでも釈然としないのは倫理の問題だからだろうか。
記者の鶴田も別の視点からオックスマートを追ってミートステーションの加工食品の問題にたどり着いた。
こちらは鶴田の私怨でやや八つ当たりのような気もするが、真実に迫る仕事の熱意は凄まじい。
ただ、どうしても素直に認められないのは現実のマスコミによる印象のためだと思う。
それでも記者という仕事はとても大変だと思わされる。
取材のために時間をとられるので、プライベートなんてあったものじゃない。
真実に迫る記者の原動力は、作中の鶴田のように自分自身を突き動かすなにかがないと難しい仕事なのかもしれない。
オックスマートの室長の滝沢も悪役なりに会社を守ろうとしている。
しかし、間違ったやり方で自分に都合の悪い存在を抑え込もうとするのはいい死に方はしないだろうな、きっと。
こういった作品を読むと社会問題の一因に消費者の理解不足があると思う。
風評被害というものも消費者が正しい知識を持てば何の問題もないことだ。
最近のニュースやSNSなどを見ていると、自分で情報収集をせずに、国や企業が情報提供をするのが当たり前だという風潮が強く感じる。
もちろん、情報を正しく発信するのは当たり前のことだ。
しかし、情報を得ようとする、正しく理解しようとする姿勢をないがしろにするのはいかがなものか。
過度なお客様精神、向上心のなさは、結局のところ自分自身の首を絞めることにつながりかねない。
自分から情報を得る努力をし、知識をつけることは自分を守るために非常に大切なことだ。
自分を守れるのは結局のところ自分自身だけだ。
そこだけは他人任せにはできない。
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【あらすじ】震える牛 相場英雄
捜査一課継続捜査班に所属する田川信一は、迷宮入り濃厚な目立たない未解決事件を担当する刑事である。
上司である宮田次郎から命じられた仕事は「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」であった。
特命捜査対策室が扱えない、やっかいな事情がある事件だという。
「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」はJR中野駅の北口商店街で起きた事件で、発生から2年を経過していた。
全国チェーンの居酒屋「倉田や」に、全身黒ずくめで目出し帽を被った男が「マニー、マニー」と叫びながらレジを襲った。
そのとき刃物で店員を切りつけ、さらに近くに居合わせた客の首を刺し、2人を殺害した。
この状況から不良外国人による強盗殺人と断定し、捜査を開始していた。
しかし、やっかいな事情とは別のところにあった。
当時の特別捜査本部指揮官の中に、第二強行犯担当監理官の欄にキャリアの矢島達夫があった。
矢島は現在、特命捜査対策室の理事官に昇進している。
矢島が関わった未解決事件を、矢島がいる特命捜査対策室に持ち込めば矢島の顔に泥を塗ってしまう。
そういった事情から田川に回ってきたということだ。
田川は捜査を続けていくと、当時の初動捜査の杜撰さ、断定的な捜査方針のせいで貴重な証言者を見逃していたことを知る。
地道な地取り、鑑取りを続けていく中で、不良外国人の犯行ではなく、計画的な犯行の線が浮上してくる。
インターネットメディアの記者 鶴田は巨大なショッピングセンターやスーパー事業等を展開しているオックスマートを追跡取材をしている。
オックスマートは様々な事業を展開しているが、強引な取引や圧力を用いて、意図的に競合他社を潰し、自社を押し上げるかたちだった。
このやり方を鶴田は独占禁止法違反、「優越的地位の乱用」ではなにかと指弾した。
この他にも地元の商店街をつぶすショッピングセンターのやり方や、入っているテナントの問題などにも注目していた。
あるときタレコミが入った。
オックスマートの出入り業者であるミートステーションについてのものだった。
情報提供者に取材を進める中で、加工食品の混ぜ物問題を知ることになる。
ミートステーションはくず肉に各種大量の食品添加物を使用して「それらしいもの」を作っているという。
食品添加物がそれ単体であれば問題はないが、組み合わせた場合のデータはなにもなく、国も監視していない。
食品添加物を使用するのは食品ロスを減らす正しい目的のためであるが、ミートステーションは一線を越えてしまっているという。
取材を続ける中で、鶴田はオックスマートとミートステーションの関係性、食の安全について真実に迫ってゆく。
全く畑違いのような2つの出来事がどのようにして繋がっていくのか。
また、ショッピングセンターによる地方の衰退、加工食品の安全性などの問題にも触れた本作は、自分で考えようとしない現代人に対する問題提起となるのではないだろうか。
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【あらすじ】AIに負けない子どもを育てる 新井紀子【感想】
AIに負けない子どもを育てる 新井紀子
前作のAI vs.教科書が読めない子どもたちを読み、「読解力」について考えさせられ、どうすれば身につくのか、子どもに身につかせることができるのか知りたくなった。
前作の感想はこちら
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すぐに手に入れ読み終えたので感想を書きたいと思う。
RSTテストについて
本書にはRSTテストの体験版を記載している。
旬を過ぎた廃棄される問題だが、各項目を体験することができた。
また、タイプ別診断もあり自分が何を読めていて、読めていないのかを知ることができた。
その中で出た判定は「前高後低型」で、テストを受けた中では一番多い分類になるらしい。
指摘された内容は、下手な占いよりもズバズバ当てられていて、多数に向けられたものなのに、私個人に向けられたものなのではと思えるものであった。
これだけでもRSTの有効性を信じられる内容であった。
また、読解力は大人になってからも伸ばすことができるという。
本書の中でも博士号を持っているRSTに関わった方が、一文一文しっかりと読む訓練を積むことで、飛躍的に向上したとのことだ。
自分もせっかく読書が好きなので、もっとじっくり一文ずつ理解して読みたいと思う。
多読よりも「深読」をするようにして、自称ミステリ好きなので論理力も磨きたいと思う。
子どもの読解力を伸ばすことについて
私には小学生になる2人の息子がいます。
読解力で入れる高校の偏差値が決まると言われれば、対策を講じたくなるのは子を持つ親としてはわかってもらえるだろう。
各学年による注意点やどう接してあげたら力を伸ばして、苦手意識を持たないように助けてあげられるかを書いている。
どちらかといえば親というより、学校の先生からの目線というような書き方だが、十分参考になると思う。
ただ宿題をさせるよりも、ここで紹介された点を意識して伸ばしてあげたらいいのかなと思う。
そして、RSTを受けられる6年生になったらぜひ受けさせたいと思う。
子を持つ親御さんであればぜひ本書を手に取ってほしいと思う。
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【感想】スマホを落としただけなのに 志駕晃【ネタバレ】
スマホを落としただけなのに 志駕晃の感想です。
本書のあらすじはこちら
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以下、ネタバレになる内容を含みますので未読の方はお気を付けください。
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【あらすじ】スマホを落としただけなのに 志駕彰
麻美の彼氏の富田がタクシーの中でスマホを落としたことが、すべての始まりだった。拾い主の男はスマホを返却するが、男の正体は狡猾なハッカー。麻美を気に入った男は、麻美の人間関係を監視し始める。セキュリティを丸裸にされた富田のスマホが、身近なSNSを介して麻美を陥れる凶器へと変わっていく。一方、神奈川の山中では身元不明の女性の死体が次々と発見され……。
宝島社(https://tkj.jp/book/?cd=72706601)
主人公である麻美の彼氏 、富田のスマホを男が拾ったことで物語は始まる。
画面に映った2人の写真をみて麻美のことを気に入ってしまう。
麻美から電話がかかってきたことで、麻美のフルネームを把握した男はFacebookで検索をかける。
麻美自身は個人情報をほとんど記載していなかったが、彼氏の富田は出身校から生年月日まで自身の情報を上げていた。
そこからスマホのパスワードを見つけ出し、富田のはもちろん、麻美の個人情報を少しずつ集めてゆく。
語り手が変わり、刑事の毒島は神奈川県の山中に死体が遺棄された現場で捜査をしていた。
遺体は全裸で白骨化しており、身元がわかるものが何一つなかった。ただ、麻美と同じく長くて綺麗な黒髪の女性だった。
大雨が降った次の日にも別の死体が発見され、こちらも黒髪の女性だった。
さらに同じ山中の別の場所で人が入る大きさの穴が見つかり、他にも死体が埋められているのではないかと疑惑が出てくる。
男は麻美と富田の交友関係や周辺の情報を徹底的に調べていく。
そして、偽名のアカウントや、2人の友人に成りすましたアカウントを作成することで、2人や友人たちに接触していく。
友人の加奈子からFacebookを教わり、すこしずつはまっていく麻美。
その中で、大学時代の元カレ武井を見つけ、悩んだ結果友達になり再び連絡をとるようになる。
大学時代に武井とは短い付き合いだったが、その裏には色々な事情も見え隠れする。
また、麻美の周りでは奇妙なことが立て続けに起こる。
富田へのクレジットカードの不正請求、加奈子への不審なメール、妙にしつこく連絡をしてくる富田の会社の人事部の小柳…。
富田のスマホが何者かに脅迫されたことで、事態はさらにエスカレートしていく。
今では誰でも所持しているスマートフォン。
便利で手放せないものになっているが、それは個人情報がたくさん詰まっている。
自分自身だけではなく、中に入っている友人知人、仕事関係者など。
誰にでもあり得たかもしれない、日常に起こり得る恐怖を感じるサスペンス小説となっている。
ぜひ読んでみて、自分のセキュリティを見直すきっかけにしてほしい。
映画化もされています。
時間がない方はこちらで楽しむのもいいと思います。
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【感想】友達以上探偵未満 麻耶 雄嵩【ネタバレ】
友達以上探偵未満 麻耶 雄嵩の感想です。
本書のあらすじはこちら
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内容にはネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
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【あらすじ】AI VS 教科書が読めない子供たち 新井紀子【感想】
東ロボくんは東大には入れなかった。AIの限界ーー。しかし、”彼”はMARCHクラスには楽勝で合格していた!これが意味することとはなにか? AIは何を得意とし、何を苦手とするのか? AI楽観論者は、人間とAIが補完し合い共存するシナリオを描く。しかし、東ロボくんの実験と同時に行なわれた全国2万5000人を対象にした読解力調査では恐るべき実態が判明する。AIの限界が示される一方で、これからの危機はむしろ人間側の教育にあることが示され、その行く着く先は最悪の恐慌だという。では、最悪のシナリオを避けるのはどうしたらいいのか? 最終章では教育に関する専門家でもある新井先生の提言が語られる。
東洋経済STORE(https://str.toyokeizai.net/books/9784492762394/)
感想とあらすじ
センセーショナルなタイトルで目を引き、大げさなことを言って危機感を煽っているだけの作品だろうと思いながら読んでみると表紙の通り衝撃を受けた。
作者の新井紀子氏は数学者でありながら教育の専門家でもあり、一般社団法人「教育のための科学研究所」の代表理事・所長を務めている。
AIがどういったもので、どういう作業が得意で、どういう作業が不得意なのかを簡潔に説明しつつ、東ロボくんのプロジェクトの過程で学生の読解力に疑問を持ち、教科書が読めていない実態に気づく。このままだとAIに仕事を奪われ、AIが不得意な分野の仕事に就くことができなくなってしまうという警鐘を鳴らしているといった内容である。
AIとは
私がAIと聞いて想像するのは、SF映画などでホログラムによって映ったAIと人間が、人間同士と全く変わらない会話をしている映像が思い浮かぶ。
しかし、AIとはそういうものではなく、論理と確率によって導き出したものを表している”計算機”でしかないという。
なぜならAIは数学によって表したものしか扱えず、数学に変換できないもの(感情など)は理解することができないからだ。
東ロボくんのセンター試験挑戦での英語学習でも150億文の英単語を覚えさせても偏差値50を超えるのがやっとという結果だった。
ネイティブスピーカーでもびっくりな数の単語を覚えても、文章を文章と認識できず、穴埋め問題に片っ端から埋めてみて、一番検索にかかるものを選ぶことでなんとか正答するということらしい。
なんだ、AIはまだまだなのか。
そう思いそうですが、ルール化された状況には非常に強く、また人間と違い疲れ知らずなので、単純作業も人間を凌駕しています。
AIによってなくなるであろうという仕事で、新井氏は半沢直樹を例に挙げ、2013年(半沢直樹が流行っていたころ)に披露していましたが、2016年にはジャパンネット銀行が融資審査にAIを導入するなど現実化してきています。
ルール化しやすい仕事は、これからどんどんAIに置き換わるだろうと思うと怖いと感じました。
AIにできない仕事に就けるのか
AIが苦手な作業は、数学にできない分野の仕事です。
そこで必要になってくるのは、AIが苦手としている読解力とコミュニケーション能力になってきます。
しかし、大学入試を終えたばかりの大学生を調査したなかで、大学のレベルによって問題文を読む読解力に差があることがわかりました。
例題
次の報告から確実に正しいと言えることには〇を、そうでないものには×を、選択肢から選んでください。
公園に子供たちが集まっています。男の子も女の子もいます。
よく観察すると、帽子をかぶっていない子供は、みんな女の子です。
そして、スニーカーを履いている男の子は一人もいません。
①男の子はみんな帽子をかぶっている。
②帽子をかぶっている女の子はいない。
③帽子をかぶっていて、しかもスニーカーを履いている子供は、一人もいない。
本文より引用
答えはわかったでしょうか。
正解は①だけです。
詳しい解答は本書を見て頂くとして、この問題の正答率は64.5%です。
高学歴といわれるレベルの大学では85%が正解しているなかで、有名私大クラスで66.8%、下位クラスの大学では50%を下回る結果となっています。
知識も知恵も必要のない「読めばわかる」問題ですが、こんなにも差が出ることに驚きました。
これにより作者は、どこの大学に入学できるかは読解力が重要だと確信します。
これからどのような仕事がなくなり、生まれてくるかはわかりませんが、大まかなながれとしては画一的な勉強の成績が出る学歴が重要ではないでしょうか。
専門的な技術があればとも言えますが、何を学ぶにしても文章を読んで理解する力は必ず必要です。
仕事を巡ってAIと競合しないためにも読解力を上げることがとても重要ではないでしょうか。
さいごに
いろいろなものが発明されることで、くらしは便利になり豊かになりました。
その反面で仕事を奪われた職業も多々あったでしょう。
今回AIの出現はこれまでとはまた違った社会の変化を起こすのかと思います。
例題のような問題は他にも紹介されていますが、私自身も間違う問題も多々あり、こんなにも文章をちゃんと理解できていないものなのかと恐ろしく感じました。
子供を持つ親としては、ぜひとも読解力を付けてたくさんのことを知ってほしいなと思いました。
続編として読解力を伸ばす方法も紹介されていますので、ぜひ読んで感想を書きたいと思います。