【あらすじ】早朝始発の殺風景 青崎有吾【感想】
早朝始発の殺風景 青崎有吾
鮎川哲也賞を受賞したデビュー作 体育館の殺人 を書いた青崎有吾の短編集
高校生が織りなす5つの短編は、1つのシチュエーションでミステリーを完成させている
全ての話は、ちょっとした違和感が謎を呼び、それを解いていくという形で、日常の謎に分類される内容
6つ目はエピローグで、表題作の 早朝始発の殺風景 の登場人物を主に、これまでの短編の登場人物が少しずつ出てくる大団円になっている。
以下、ネタバレを含む内容になっております。未読の方はご注意ください。
早朝始発の殺風景
ある理由のために始発に乗り込んだ男子高校生
駅は閑散としていて乗客は誰もいないと思っていたら、あまり話したことのないクラスメイトの女の子が乗っていた。
学校に行くには早すぎる時間に、たまたま乗り合わせた2人。
一体なぜ、こんな時間に電車に乗っているのか。
互いのスマホを交換して情報を得ることによって、2人の物語が進んでゆく。
メロンソーダ・ファクトリー
学校帰りのファミレスで、文化祭で着るクラスTシャツのデザインを考える女子高生3人組。
人をカテゴライズするのが好きなノギちゃん
メロンソーダが好きすぎていつも飲んでいる詩子
詩子のお母さんのような真田
別のクラスメイトと真田の出した2つの案から選ぶことになったが、小学校からの付き合いである詩子と真田の意見が合わなかったことにより不穏な空気が広がる。
結論からいうと詩子は(ドラッグで表示)色覚異常で、赤色と緑色が見分けがつかない病気(ここまで)で、真田のデザインがわかりにくかった。
このほかにも、制服のリボン色が違うことや、中学時代の写生大会など伏線の張り方も素晴らしかった。
最後のクラスTシャツのデザイン案を決めるところも素晴らしく、帯に書かれた「謎を追いかけているうちに、気づけば彼らを好きになる」が一番伝わった。
夢の国には観覧車がない
部活の3年生追い出し会で訪れた幕張ソレイユランド。
後輩の伊鳥に誘われ、なぜか男2人で観覧車に乗ることになり2人きりになる寺脇。
なぜ伊鳥は寺脇と2人で観覧車に乗ろうとしたのかが、最後までずっと謎としてあり続ける。
これが解決したときに伊鳥の気遣いと用意周到さに気づき、それまで仲が良いとは言えなかった2人が仲良くなるきっかけになる。
チャンスを逃すことを例えた表現で、「観覧車の一番高い場所がいつかわかるか」という表現はすごく的を得ていていい表現だなと思った。
エピローグでは約束していたディズニーランドに2人で行っているシーンがあり、ほっこりできた。
捨て猫と兄妹喧嘩
妹が公園で猫を拾ったことを兄に相談したことから物語が始まる。
2人は両親が離婚したため、離れて暮らしている。
妹が暮らすマンションはペットを飼うことができず、元の家で暮らしている兄に飼えないか相談するといった内容。
他の作品に比べてミステリー色は少なめ。
それでも兄妹愛が慎ましくて読後感がとても良い。
ただ、飼えないペットを捨てるのはだめですよ。
三月四日、午後二時半の密室
高校の卒業式のあと、クラス委員の草間が、式を風邪で欠席した煤木戸へ卒業アルバムを届ける話。
クラスでは孤高の存在で周りと距離のあった煤木戸に会った草間は、煤木戸が仮病を使って卒業式を休んだのではないかと思い始める。
しかし、草間の前で薬を飲むなど仮病では危険な行為を目の当たりにし、煤木戸からもそこまでひねくれていないといわれる。
だが、帰り際になって部屋の違和感に気づき、煤木戸がついた嘘が草間によって暴かれる。
煤木戸も背伸びをしていた普通の女子高生で、草間とも何の変りもなかった。
煤木戸はちょっとした見栄で(ドラッグで表示)片付けてない自身の部屋ではなく、留守の姉の部屋で(ここまで)草間を迎えたのだった。
高校最後で仲良くなれた2人は、きっと大学に進んでも交流があったに違いない。
エピローグ
エピローグはその名の通り、全ての短編の後日談となっている。
これはぜひとも自身で読んでもらいたい。
青春の甘酸っぱさが詰まった、あの頃に戻りたくなる短編集だった。